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涙、なみだの安城落語会

 落語を見てからというもの、人に会えば落語の話ばかりしている。周りから新たな情報をいただくことも多く、本日見に行った安城落語会は、馴染みのカフェのオーナーさんから教えていただいた。
 この安城落語会、今回でなんと122回目。落語を聞きたいけれど遠方まで行くのは大変、ならば地元に落語家を呼んでしまおうと、落語が大好きな世話人が周囲の落語好きを巻き込んで始めたのがきっかけだ。以来、昭和53年から年に4回ずつ口演を行い、今日に至る。今まで出演した噺家は、志ん朝、小さん、米朝、文枝、談志、小三治・・・と錚々たる顔ぶれ。これほどの噺家を呼べたのは、落語を見たい、その一途で熱い想いがあってのことだと思う。会場を寺の本堂にしたのも良かったのだろう。
 122回目となる秋の落語会は柳家さん喬、喬太郎の親子会。会場は毎度お馴染みの光徳寺の本堂だ。本堂に座布団が敷き詰められ、約200人の観客が詰め掛ける。上野の鈴本演芸場ほど高齢ではないが、夫婦か仲間で来たとみられる中高年層がほとんど。なかには第一回からの皆勤賞組もいたかもしれない。席はぎゅうぎゅう詰めで、足を伸ばすなんて横着はできない。腰痛持ちの方にはいささか辛い席ではあるが、窓際の席には椅子席も用意されている。
 高座は煌びやかな仏壇の前に用意され、仏壇を隠すように高座の後ろに金屏風が立つ。両脇には紙で作った紅白の花飾りが吊り下げられ、南無妙法蓮華経と書かれた行灯も。その独特な飾り付けを、柳家喬太郎が「商店街の飾りですか?」と突いていた。
 
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 開演の午後6時半になると心地よい出囃子が鳴り始める。前座は九番弟子の柳家小ぞうが務め、題目は『初天神』。「あれ買ってこれ買って」としつこくねだる子どもと父親の噺だ。次は三番弟子の柳家喬太郎。題目は『初音の鼓』。ポンと鼓を叩くと、側にいる者に狐が憑き、コンと鳴くという実にバカバカしい話だが、喬太郎の表情が可笑しい。
 師匠、柳家さん喬は『寝床』を語る。義太夫語りが趣味の旦那が自ら会を催すが、上手いと思っているのは本人だけ。実際は“義太熱”なる高熱でうなされるほど強烈で、長屋に住んでいる豆腐屋も提灯屋もせんべい屋も、苦しい口実をこしらえて欠席しようとする。が、そうは問屋が卸さない。「嫌なら嫌って言やぁいいんだ」とすねる旦那に対し、「そうですか」とあっさり引き下がる番頭。すると旦那は「「おい、ちょっと待て、おまえは“そうでしょうけれども”という言葉を知らぬのか」と諭す。その後は旦那にまんまとしてやられるのだ。
 と、前半の話も面白いが、さん喬、喬太郎、二人の語りが冴えてきたのは仲入り後の後半。喬太郎は現代落語「夜の慣用句」で、部下に疎まれる課長を演ずる。「おいっ、中村っ」と部下を呼び捨てし、ビールを注げと遠回しに伝える嫌味な課長が板に付いている。座右の銘を聞くのが口癖で、部下は部下で妙ちきりんなことわざを言う。そこでも笑えるのだが、それ以上に、ポンと押したらピューッと風のように飛んでいってしまうような、喬太郎の軽々しい振る舞いがいい。もしや、この課長って実際の喬太郎そのものなんじゃない?とも思えるのだ。
 その後に続く、さん喬の噺は人情噺『子別れ』。ぼそぼそと語るさん喬の語り口。そうか、喬太郎の軽すぎるトークは、師匠を際立たせるための策だったのかと後から気付く。さん喬は不意を付いた突っ込み芸が上手い。そして、噺に入るまで、噺に入ってからの声色遣いは同一人物とは思えないほどだ。
  『子別れ』は、上・中・下の三部に分かれる長い噺だ。酒癖の悪い旦那と貞淑な妻、無邪気な子ども“カメ”の3人が主要な登場人物。噺は亭主と離縁する“中”から始まる。数年後にカメと再会した旦那は、酒を断ち、女とも別れ、棟梁として真面目に働いている。可愛いカメに「お父ちゃん」と呼ばれると、旦那は愛しくてたまらなくなる。母親とつつましく暮らしている様子をカメから聞き、感傷的になる旦那。旦那はたまらず小遣いを渡した・・・。と、噺はカメが鎹となって、元の鞘に収まるというめでたい結末だ。
 落としどころもあるが、この噺の聞きどころは涙を誘う場面だった。とくにカメのセリフが泣かせる。「おっ母ちゃん、お父ちゃん」と、嘘偽りのない純粋な言葉に胸が熱くなるのだ。ワタシの斜めに座っていた七十歳くらいのオジチャンは、何度も眼鏡を外して目頭を押さえていた。時にはタオルで顔を覆っている。涙もろい方だったのか、気がつくとオジチャンは声を押し殺して号泣していた。見まいと思っても、オジチャンの小刻みに震える姿が視界に入ってくる。さん喬の涙声と、オジチャンの涙に、もらい泣きしてしまった。しかしながら、オジチャン、何か思い当たることがあったのだろうか。
 さん喬は昭和23年生まれ。ということはワタシの父親とほぼ変わらない。それなのに、カメを演じていると5歳くらいの子どもに見えるから恐ろしい。衣装も化粧も何一つ変えていないのに、話芸だけで子どもになったり、母親になったり、父親になったり。オジチャンを含めた大勢の観客の涙を誘った、さん喬の語り。やっぱり落語は凄い。
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コメント

nao

なんかスゴイなあ・・・
最近のmariさん、
憑かれたように「落語」三昧だ。
「落語」に恋しちまった感じだ。

娯楽が限られていた昔は、
市井の庶民は、噺家のことには
くわしかったんです。
ホント、時代が一回転したなあ・・・
という感懐。

安城落語会の発足当時は、
とうの昔に亡くなった父親も協賛者のひとりで、
回覧版で日取りや演目が回ってきて、
毎度欠かさず高座に出かけておりました。
まことに満足そうに帰ってきたもんです。
いやはや贅沢なもんです。

そのころ、講談社文庫から興津要の
『古典落語』が出始めて、わたしは
その緑色のシマシマ模様の表紙のシリーズが
刊行されるたびに安城日新堂で買ってはまっていました。
「続」、「続々」と分厚い文庫がどんどん発刊。
うれしくて学業を忘れました。
(現在では講談社学術文庫から装丁を一新して
 再編集されて出ているようですが・・・)
いや~古典落語が読んで面白いとは思わなかった・・・

こちとら、小さんのボソボソの話しぶり、古今亭志ん朝の飄逸さ、
先代円生の最後期の円熟味は体になじんでいるので、
活字を目で追いながら、噺家の声を聞くように読めたんです。

でも、安城落語会の発足時には、われわれは
高校卒業間際だったので、ロックやフォークに現をぬかして、
古典落語に突っ込んでいくことはありませんでした。
今にして思えば、ものすごい大物のリアルな高座を
目の前で見逃していたわけで、もったいないことをしました。
受験勉強などまともにしたことなかったのにねえ・・・

そうそう、名古屋の今池の「玉寿司」という老舗寿司屋さんでは、
2階の座敷で定期的に落語会をやっていますよ。鮨も絶品ですが、
落語普及の情熱もすごい。東海高校出身の物知り大将さんは、
話も面白くて男ぶりもいいです。






mari

naoさん
落語情報、ありがとうございます。naoさんのお話をうかがうと、もう少し早く生まれていたらと悔やまれてなりません。今、談志と、志ん朝、小さん、文楽、金馬のCDを借りています。先ほど、談志のCDを聞きましたが、あの臨場感、スピード、たまりませんね。naoさんがおっしゃるように、自分でも恐いくらい落語にはまってきました。名古屋の玉寿司さんですか!行って見たいです。また、面白い情報がありましたら教えてください。

takemoto

お久しぶりです。ITOURSのHPからこちらにたどり着きました。
安城落語会、いらしてたんですね。私も行きました。
いぶし銀のようなさん喬師匠と、旬真っ盛りの喬太郎師匠の親子会、ほんと贅沢すぎるほどでしたね。

私も最近は、仕事そっちのけで(笑)落語漬けの日々を送っています。
とくにこれから年末にかけては、浜松の米団治襲名披露、碧南の志の輔、刈谷のざこば、八方、正蔵、たい平、御園座の六人の会なと大忙しです(笑)
またどこかでお会いしましたら、よろしくお願いします。

mari

takemotoさん

お久しぶりです~。ITOURSのHPからいらっしゃったとは驚きです(ダンナが特に驚いてた)。さてさて、安城落語会、いらしてたんですね!全く気がつきませんでした。碧南の志の輔独演会のチケットは取れましたが、御園座の六人の会は入手できず。あ~悔しいやら、うらやましいやら。体調を崩したり、断れない仕事が入ったりなど、やむなく行けない場合は、私が買い取りますのでご連絡ください!!私はここ最近落語に興味を持ったばかりです。おすすめの噺家、落語情報などなど、また教えてくださいね。

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MARUKA-DO

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東海地方を縦横無尽、
全国各地に神出鬼没の
取材・執筆・編集事務所。
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まさ…岐阜・揖斐川町出身
まり…愛知・尾張地方出身
2003~2019愛知県知立市在住
2019~岐阜県揖斐川町在住

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