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談志の凄さ

 寄席で落語の面白さを再認識すると、落語という世界を教えてくれた名著の著者、談志と談春の落語が聞きたくなる。調べてみると、8月末に開催される博多の「天神落語会 夢三夜物語」に二人の名があった。年内の公演はこの日を逃すと、いつになるか分からない。とはいえ、博多は遠い。すっ飛ばして行ける距離じゃない。席料は大したことないけれど、交通費に金がかかりすぎると、ギリギリまで迷っていた。公演3日前。運良く、チケットが取れたら行こうと心に決めたら、本当に運良く、前から6列目と8列目のかなりいい席が取れてしまった。飛行機で行けばいいものの(ダンナが少し前のブログで触れているが)、車中泊というかなり無茶な方法で行くことになった。
 「天神落語会 夢三夜物語スペシャル」は今年で7回目。今回は一夜追加になり、初日に笑福亭仁鶴、二日目に立川談志&談春、三日目に桂文珍、四日目に三遊亭小遊三&春風亭昇太の超豪華メンバーが揃った。落語ファンにとっては、まさに夢のような日々だ。会場は博多の都心部にあるエルガーラホール8階。約700人収容の大ホールに椅子がずらっと並べられ、東京上野の鈴本演芸場とは異なる、広々とした空間が用意されていた。観客も20代から80、90代と幅広い。若い女性の一人客も多く、寄席とは違う雰囲気だった。
 
談春の古典落語
 まず、談志の弟子、談春が高座に上がる。彼は高座姿が美しいといわれている。その通り、高座に現れた談春はすっと背筋が伸びていて、本で見るよりも柔和な顔立ちのいい男だ。現在、43歳。脂が乗り切ったいい時期だ。初めて耳にする談春の声はワタシの好みの声だった。声はよく通り、聞きやすい。男性にしては声が高いほうだろう。
 最初の噺は、泥酔した亭主と貞淑な妻を描いた『替わり目』。酔っ払いの亭主を演じると、談春の顔は赤ら顔になり、妻を演じると元に戻る。酒も呑んでないのに顔が赤くなるって凄くないか?談春は酔っ払いの亭主、落ち着き払った亭主、強気な妻など声色を使い分ける。噺家にとっては当たり前かもしれないが、上野で見た落語家よりも上手いと思う。二つ目の『おしくら』は、東海道を旅する3人の男衆が夜の女を買う噺。東北弁訛りの女役がはまっている。これが正統派の古典落語なのか。もう少し聞いていたかった。

談志の話芸  
 談春が話を終えると、いそいそと談志が登場する。談志は談春の半分くらい、小さくて細い。そして談春と違い、マイクを通して伝わる声は掠れていた。癌で声帯を悪くしたとは知っていたが、まさかこれほど掠れているとは思わなかった。会場が一瞬にして静まり返る。ワタシは初めて耳にするが、もしかしたら、いつもにまして掠れていたのかもしれない。そんな会場の張り詰めた雰囲気を察知したのか、談志はいきなり「ワン」と客席に向かって吠えた。完全に不意を付かれた観客は呆気に取られ、氷が溶けるように緊迫していた空気が緩んで、笑いの渦へと変わっていった。この人は優しい。その時に何となく感じた談志の第一印象だ。「すいませんね、こんな声で。後ろの人、聞こえてますか?」と、その後も談志は客席を気遣った。
 談志噺は現代の話が絡み合い、フレッド・アステア、和田誠、映画通でなければ分からない話も幾つか登場する。こんなマニアックな話ばかり続くのかなぁと思い始めた矢先、「こんなマニアックな話が続くと困りますね」と、こちらの思っていたことを見透かしたようなセリフを言ってのける。その後も北京オリンピックや他の落語家の話やらいろんな話をして、「いつになったら落語を始めるのかと皆さん思っておられるでしょう。安心してください。ちゃんと落語をやりますから」と、場の空気から観客の心を瞬時に読みとって、的確なタイミングで返した。
 噺は現代から江戸へ遡り、粗忽な殿様と家来の田中三太夫の噺が始まる。これは『松曳き』という噺で、談志の弟子、志らく曰く、粗忽噺のなかで最も高度な噺だという。家来の三太夫が自分の姉が亡くなったのに、殿様の姉君が亡くなったと間違った報告をしてしまい、殿様は悲しみにくれる。ところが、実は殿様には姉君はいなかったというオチ。こうやって書いてしまうと面白くも何ともないように思えるが、実際に生で噺を聞くと全く別物になるから不思議だ。顔の動きだけでなく、腰を浮かして右へ左へと体を動かし、全身で表現する。途中で喉を潤すために白湯を飲み、「白湯を飲むタイミングが難しいんですよ」と、話が脱線するが、きちんと元に戻ってくる。その場の流れも空気もすべて、談志に操られていたような感じだった。気が付けば、声が掠れていることなんて全く忘れていた。
 
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 聞き終えたダンナは放心状態で、「すげぇわ」の一言。あまりに感動しすぎたワタシとダンナは、落語に行く前に博多ラーメンを食べたくせに、ビール(ワタシだけ)とおでん、モツ煮をつまみながら、立川談志、談春の話芸について語った。
 噺家にとって声は不可欠。けれど談志師匠にはそれを必要としない技がある。よく分からないのだけど、ふっとその役が談志の体に宿る感じがするんだなぁ。落語の素人にはまだ分からないことばかり。9月には隣の安城市の落語会に、11月には志の輔の落語を見に行く予定を立てた。いろんな噺家の落語を聞いて、再び談志の落語を見たい。ムリして博多まで行って本当によかった。
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コメント

nao

思うに・・・
何も落語が関東のものとは限りません。

上方落語もすごいですよ。

上方落語を今のところ背負っていると言って
過言ではない桂米朝一門は、結構若手に
巧者がそろっており、先般も、西宮市の
阪急西宮北口駅前にできた兵庫県立芸術文化ホールで、
米朝一門の落語会があり、それはそれは
大盛況でありました。

ま、桂ざこばは、う~ん?と思いますが、
見逃せない噺家が多いですね。
残念ながら、米朝の下で修業を積んだ桂枝雀が
うつ病から自殺して、米朝一門も一時期は
大ショックから立ち直れませんでしたが、
今は盛り返してますよ。

さしあたり、まだまだ入場しやすい
大阪天神さんの門前にできた
天満天神繁昌亭なんかで若手の落語を
見るのもいいかもしれません。

また大阪府立の演芸資料館という硬い肩書ながら、
通称では「ワッハ上方」で知られる灘波の上方ライブも
ときどき若手落語家がオモロイ高座をやります。
NGK(なんばグランド花月)の斜向かいのビルの
4~7階にあります。

吉本興業があまりにも関西お笑いビジネスを
席捲しているものですから、上方落語がうまく
表に出てこないのが悩みですが、いい味出してます。

ただ、あの関西独特の灰汁の強いシャベクリや
えげつない会話にアレルギーを覚えるといけませんが、
笑福亭仁鶴のような名人芸もあるわけで、
是非とも上方落語にも興味の幅を広げてほしいものです。



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MARUKA-DO

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東海地方を縦横無尽、
全国各地に神出鬼没の
取材・執筆・編集事務所。
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まさ…岐阜・揖斐川町出身
まり…愛知・尾張地方出身
2003~2019愛知県知立市在住
2019~岐阜県揖斐川町在住

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