半鐘を鳴らして火事の発生を住民に知らせたHINOMI。

2013年10月10日
 火の見櫓とはなんの関係もなくまたまた本がらみですが、先日、NHKの取材班が書いた本を2冊続けて読みました。「里山資本主義-日本経済は『安心の原理』で動く」(藻谷浩介、NHK広島取材班/角川ONEテーマ21)と、「沖縄返還の代償 核と基地 密使・若泉敬の苦悩」(「NHKスペシャル」取材班/光文社)です。

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 たいへん結構な内容で面白く読みましたが(「里山資本主義」のほうで地方の若者の欲求という変数を抜いて理想論を展開している点に少し違和感を感じたけど、わざと考慮していないのかな?)、その中身はさておき、文体に共通点があることに気が付きました。それは、以下のような書き方が頻出すること。

東京電力・福島第一原発の事故のあと、誰もが関心を持つようになった「エネルギー」。
(里山資本主義)
二〇〇九年一〇月、ギリシャで巨額の財政赤字が発覚したことが引き金となって始まったユーロ危機。
(里山資本主義)
毎日うきうきと小型のバンに乗り込み、耕作放棄地を切り拓いて作った畑に向かう数人の若い女性たち。
(里山資本主義)
2009年秋に始まった日米外交交渉における、政府による密約調査。
(沖縄返還の代償)
国家の意を受けて、秘密の外交交渉に臨んだ若泉。
(沖縄返還の代償)
最後まで残していたという繊維問題の資料。
(沖縄返還の代償)

 これらはすべて1・見出し直後の文章冒頭にあり、2・体言止めで、3・「○○○○の××××」という文章構造になっています。
 このようなパターン化した文体は、いつ頃からか気が付かないうちにやたらと目にするようになりました。もう少しわかりやすい例だと、こんな感じ。

1000年以上の歴史を誇り、名旅館が多いことで知られる下呂温泉。
草津、有馬と並んで「三名泉」のひとつに数えられる下呂温泉。
傷付いた白鷺が飛来したことで発見されたといわれる下呂温泉。


 あー、あるある!と膝を打つ人も多いのでは。紙媒体の関係者だけかな。
 とりわけ頻出しているのが雑誌で、何かの概説、タウンガイド、店や施設の紹介、旅モノ、テキストがメインの記事広告などに多く使われているように感じます。新聞ではあまり見ませんが、女性記者が書く記事でときどき見受けられます。あと、中央・地方の区別もない。中央の媒体で使われ始めて、地方にも波及したと見るのが妥当ではありますが。

 僕個人の感覚ですが、この文体が嫌いでしょうがない。というのは、冒頭に書かれたこういう文章は、読み手の誰もが知っているという前提条件がないと成立しないからです。なんか、書き手の押しつけがましさが滲み出ている感じがして。書き手はよく知っているのかもしれないけれど、読み手はそんなこと知らんだろう、と。
 この文体がどこ発祥で、どうして流行したのかずっと気になっていたのですが、最近はたと気が付いた。これって、テレビのナレーションの冒頭部分ではないか?と。そして、NHKの人が書いたこの2冊を読んで、たぶんそれで合っている気がしてきた。きっと、テレビを見過ぎの人が始めた文体なのだろう。
 いつから広まったのかはわからないけれど、昔はそんなになかったような印象だし、なんとなく90年代後半のような気がするが、どうだろうか。
 ただし、テレビのナレーションにおいては、この文体はアリだと思います。なぜなら映像とセットなので、まず一目見て理解してからそれを聞くことになるから。なので、映像ありきの原稿に慣れているNHKの人なら、こういう書き方になるのは理解できる。

 実はこの文体、わたくしら本業のライターからするとけっこう簡単で便利なのです。書き出しに困ったとき、パターンにあてはめて「○○○○として広く知られる××××。」などと書けば、たいてい文章が流れてゆく。嫌いでしょうがないとか言いながら、何かの紹介原稿なんかだと急場しのぎで使ったりすることも、まあ、ないとは言い切れません。
 でも、正しい日本語文章ではないような気がするので、できうる限り使わない所存でございます。皆様もそういう原稿を見かけられたら「抜いたな」「書くのに難儀したな」「何も考えてないな」等を見抜いて、楽しんでいただけたらと思います。

131010-2.jpg「どうでもいいですよ、おとうさん」

 文体についてエラソーなことが言えるほど、普段立派な文章など書いていないのである。
 なお、文章技法についての本は、本多勝一「日本語の作文技術」(朝日文庫)、林望「文章術の千本ノック-どうすれば品格ある日本語が書けるか」(小学館)などをむかし読みましたが、それなりに面白かった覚えがあります。
(まさ)
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そのほか | Comments(2) | Trackback(0)
Comment
No title
映像解説と文体…そういう関係だったのですか。面白いアプローチですね。思いもよらなかった。
No title
いや、まあ、本当のところはわからないですが…。ついでにいうとこの文体、番組の終わりのまとめ的なナレーション(特にNHKのニュース)でも多用されております。

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